キルギスからやってきた現代に誇り高く生きることの切なさと希望を静かに問いかける映画『馬を放つ』

公開日 : 2018年02月27日
最終更新 :
人馬一体となり大地を疾駆する。天に向かい祈りを捧げているよう
人馬一体となり大地を疾駆する。天に向かい祈りを捧げているよう

中央アジアの小さな国から届いた心に染み渡る佳品が3月中旬公開!

騎馬遊牧民の末裔が暮らす美しい山河と草原の国、キルギス

騎馬遊牧民の末裔が暮らす美しい山河と草原の国、キルギス
山々を見晴らす美しい風景も本作の見どころ

 中央アジアの小さな国、キルギス。面積は日本の半分ほど。国土の約4割が標高3000mを超える高地で、東側に天山山脈を望み、南にはパミール高原が広がっています。
雄大な山河と美しい草原で知られ、その景観から「中央アジアのスイス」と称されることもあります。
古来シルクロードの要衝として、東西交易の通路ともなり、また、三蔵法師も求法の旅の足跡を残すなど文化交流の舞台でもありました。

キルギスの多くの人々は、古くから馬を駆って大地を走り、騎馬技術に優れた遊牧民として生活を営んできました。キルギスには「馬は人の翼」という諺もあるそうです。
現在も、キルギスの人々の暮らしの中のさまざまな場面に、騎馬遊牧民の末裔としての高い誇りが生きています。
馬は、キルギスの人たちの精神生活にとって象徴的な意味を持つ、特別な存在なのでしょう。

そのキルギスから、「馬」を巡る、切なく、心に沁み渡る映画がやってきました。

『馬を放つ』、原題『CENTAUR(ケンタウルス)』。

監督、脚本は、前作「明りを灯す人」(2010年製作)で、グローバル化が進み、経済的に圧倒的な力をもつ外国資本の大波に翻弄されながらも、民族の誇りを失わず、毅然として生ようとするキルギスの人々の現状を、小さな村の善良な男の姿を通して描いたアクタン・アリム・クバト。
今作でも、前作に続いて主演も努めています。

ーーー【あらすじ】ーーー
中央アジアの美しい国キルギスのある村。この小さな村にも近代化の波は徐々に押し寄せてきている。
この村で、建築作業に従事しながら、妻と幼い息子の3人で慎ましく暮らす物静かな男。彼は、村人たちから“ケンタウロス”と呼ばれていた。
男の楽しみは、息子を背中におぶり“お馬さんごっこ”をして遊ぶこと、そして、息子にこの国に伝わる馬をめぐる勇壮な伝説を語り継ぐこと。
その彼には家族も知らない秘密があった。
夜、妻と息子が寝静まるとベッドを抜け出し、暗闇に紛れて村の有力者の厩舎に忍び込んでは、駿馬を野に放っていたのだ。
「馬泥棒」の仕業に怒った村の有力者たちは、犯人を捕まえるために罠を仕掛ける……

自然を畏敬し、伝統と共振する気高い魂のあり方を描く

自然を畏敬し、伝統と共振する気高い魂のあり方を描く
男が「馬」を通して我が子に伝えたい思いは……

本作は、監督の生まれた村で起きた実話を元にして構想されたそうです。

なぜ、男は、馬を「放った」のか?
男の行動に託して、スクリーンから、さまざまな問いかけがなされます。

私たちが現代社会を生き抜く中で手に入れたものの代わりに失ってしまったものは何なのか?
価値観が揺れ、多様化が進む今、アイデンティティを守るとはどういうことなのか?
いやおうなく変わっていく世界で、忘れ去られていくものを取り戻し、次の世代に伝えようとするとは、どういう思いでなされるものなのか?

キルギスを舞台にしたこの映画は、こうした問いに対する未来へ向けてのひとつの答えを、不器用なひとりの男の穏やかな日常と奇矯な行動を対照的に描くことによって、訥々と語りかけてきます。
そして、現在の世界で自らに誇りを持って生きることの重さと切なさ、そして希望を、静謐・寡黙でありながら、私たち日本人にも、真の意味で雄弁に伝えてくるのです。

ベルリン国際映画祭・パノラマ部門国際アートシネマ連盟賞受賞。アカデミー賞外国語映画賞キルギス代表。

筆者

地球の歩き方書籍編集部

1979年創刊の国内外ガイドブック『地球の歩き方』の書籍編集チームです。ガイドブック制作の過程で得た旅の最新情報・お役立ち情報をお届けします。

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