過去最高額のダ・ヴィンチ作品は本物か?ディカプリオも踊らされた美術界の闇に迫った仏ドキュメンタリー映画『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』

公開日 : 2021年11月26日
最終更新 :
ルーヴル美術館「ダ・ヴィンチ没後500年展」で展示された赤外線撮影の「サルバトール・ムンディ」 ©Yukinobu Shuzui
ルーヴル美術館「ダ・ヴィンチ没後500年展」で展示された赤外線撮影の「サルバトール・ムンディ」 ©Yukinobu Shuzui

2017年、世界を驚かせる取引が成立しました。レオナルド・ダ・ヴィンチ作と言われていた絵画「サルバトール・ムンディ(世界の救世主)」が、競売会社クリスティーズにて世界最高額の4億5000万ドル(約510億円)で売却されたのです。ダ・ヴィンチ最後の作品とされ、男性版「モナ・リザ」と世界各国でセンセーショナルに報道されたこの絵画は、じつはダ・ヴィンチ作かどうかまだ真贋が定まっておらず、あまりに急激に釣り上がった価値とのアンバランスの上に、存在が成り立っています。その真実と闇に、フランスのドキュメンタリー監督でありジャーナリストのアントワーヌ・ヴィトキーヌ監督が迫ります。本記事では映画の紹介とあわせて、劇中に登場するスポットやダ・ヴィンチゆかりの場所を紹介します。

美術界で優先されるのは真実かそれともお金か

美術界で優先されるのは真実かそれともお金か
2021年11月26日(金)公開 ©2021 Zadig Productions (c) Zadig Productions ‒ FTV

2019年10月より、「モナ・リザ」を所有するパリのルーヴル美術館では、ダ・ヴィンチ没後500年の特別展が行われました。連日の入場予約はあっという間に埋まり、大きな成功を収めましたが、その中で大きくフォーカスされていた作品のひとつが、近年再発見されダ・ヴィンチ最後の作品かもしれないといわれている絵画「サルバトール・ムンディ」でした。

クリスティーズでのオークションの様子 ©2021 Zadig Productions (c) Zadig Productions ‒ FTV
クリスティーズでのオークションの様子 ©2021 Zadig Productions (c) Zadig Productions ‒ FTV

同作品は、2017年のオークションにて約510億円という価格で落札され、世界的なニュースになりました。しかし、「ダ・ヴィンチ」という名で大きく取り上げられたにもかかわらず、絵画の作者がダ・ヴィンチ本人であるのか、もしくはダ・ヴィンチが主宰する工房において弟子たちによって描かれた作品であるのか、まだ真偽は定まっていません。

オークション前にクリスティーズで展示された「サルバトール・ムンディ」 ©2021 Zadig Productions (c) Zadig Productions ‒ FTV
オークション前にクリスティーズで展示された「サルバトール・ムンディ」 ©2021 Zadig Productions (c) Zadig Productions ‒ FTV

当初「サルバトール・ムンディ」は、2005年に米美術商に売却されたときに、価格はわずか1175ドル(約13万円)でした。しかしその後、模写ではなくダ・ヴィンチの原画である可能性が浮上し、価格が上昇。アメリカ、ロンドン、スイス、ロシア、サウジアラビア、フランスといった各国の美術商や美術館、富豪などの手を経るごとに価格は釣り上がり、最終的には510億円という額になりました。そこには美術界にうごめく海千山千の猛者たちの思惑が、「サルバトール・ムンディ」の立場を複雑にし、闇を生んでいったのです。

劇中に登場するレオナルド・ディカプリオも美術界に踊らされたひとり? ©2021 Zadig Productions (c) Zadig Productions ‒ FTV
劇中に登場するレオナルド・ディカプリオも美術界に踊らされたひとり? ©2021 Zadig Productions (c) Zadig Productions ‒ FTV

作品が最後に話題に上ったのが、上述した2019年にルーヴル美術館で開かれたダ・ヴィンチ没後500年の特別展。ルーヴル美術館は、同特別展の目玉として「サルバトール・ムンディ」の貸し出しを落札者に依頼します。当初、順調にいくかと思われた作品貸し出しですが、ルーヴル美術館が展示前に詳しく鑑定し、ある見解を出したことで一転します。最終的には購入者からルーヴル美術館への「サルバトール・ムンディ」の貸し出しが実現しなかったのです。それ以降は絵画がどこにあるのか、所在ははっきりしていません。

芸術の秋、ミステリー小説のように楽しめる映画『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』を映画館で鑑賞してみてはいかがですか?

■ダ・ヴィンチは誰に微笑む
・上映: 2021年11月26日(金)からTOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開
・監督: アントワーヌ・ヴィトキーヌ
・URL: https://gaga.ne.jp/last-davinci/
・詳細: 原題:The Savior For Sale/100 分/フランス映画/カラー/ヴィスタ/5.1ch デジタル/字幕翻訳:松岡葉⼦ ©2021 Zadig Productions (c) Zadig Productions ‒ FTV

映画と関連するパリの『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』スポット

映画と関連するパリの『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』スポット
ルーヴル美術館 ©iStock

『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』は、フランス語でのインタビューやパリの景色がしばしば登場するノンフィクション映画です。そのためパリの関連スポットを巡ると、映画内で取り上げられている出来事と雰囲気を、より身近に感じられます。

映画内でも重要な位置づけとなっているのがルーヴル美術館です。ここは「ミロのヴィーナス」「サモトラケのニケ」など世界的に有名な収蔵品が集まる場所。今、世界で現存しているダ・ヴィンチの絵画は15点前後ですが、ルーヴル美術館はそのうち「モナ・リザ」以外に「岩窟の聖母子」「ミラノの貴婦人の肖像」「洗礼者聖ヨハネ」「聖アンナと聖母子」を所蔵しています。

ロワイヤル橋とルーヴル美術館 ©iStock
ロワイヤル橋とルーヴル美術館 ©iStock

もともとルーヴル美術館は12世紀より歴代国王の宮殿であったルーヴル宮を、フランス革命後の1793年から美術館として一般公開した施設です。所蔵品は、各年代の国王のコレクションに加え、ナポレオン1世がイタリア遠征から持ち帰った「戦利品」も加わり、すべてを合わせると30万点を超えています。

■ルーヴル美術館(Musée du Louvre)
・住所: Rue de Rivoli, 75001 Paris
・最寄り駅: 地下鉄1・7号線Palais-Royal - Musée du Louvre
・営業時間: 9:00〜18:00
・定休日: 火曜
・URL: https://www.louvre.fr/

ルーヴル美術館とあわせて、映画のなかで重要な位置を占めているのが、「サルバトール・ムンディ」を510億円の額で競売したクリスティーズです。

クリスティーズ ©2021 Zadig Productions (c) Zadig Productions ‒ FTV
クリスティーズ ©2021 Zadig Productions (c) Zadig Productions ‒ FTV

同社は1766年にロンドンで創業した、世界で最も長い歴史を誇っている美術品のオークションハウスで、世界各地で年間約350回のオークションを開催しています。ピカソ、ゴッホ、ナポレオン1世、ダイアナ妃など、歴史上の人物に関連した芸術品や個人財産などを扱うことも多く、それらはしばしばニュースにもなります。

クリスティーズのパリのオフィスであるクリスティーズ・パリは、シャンゼリゼ大通りやフランス大統領官邸であるエリゼ宮から近いマティニョン通りに位置しています。

©Yukinobu Shuzui
©Yukinobu Shuzui

■クリスティーズ・パリ(Christie’s Paris)
・住所: 9 Avenue Matignon 75008 Paris
・最寄り駅: 地下鉄1・9号線Franklin D. Roosevelt
・URL: https://www.christies.com/

1枚の絵画に過ぎなかった「サルバトール・ムンディ」は、その後に化けた510億円という価値ゆえに、国家間の外交問題にもかかわるようになります。映画でその舞台となるのが、フランス大統領官邸であるエリゼ宮です。同施設は、高級ブティックが軒を連ねるフォーブール・サントノレ通りに面して建っています。

エリゼ宮正面玄関、招待客はまずここで大統領に迎えられる ©Yukinobu Shuzui
エリゼ宮正面玄関、招待客はまずここで大統領に迎えられる ©Yukinobu Shuzui

エリゼ宮は、元はエブルー公爵の邸でしたが、18世紀半ばにルイ15世の寵愛を受けたポンパドゥール公爵夫人のものになりました。その後、時代とともに所有者や建物の役割は変わっていきましたが、1874年より大統領官邸として使われています。

エリゼ宮は一般公開されておらず、いつも周囲は物々しい警備に包まれています。ただし、9月第3週末の2日間「ヨーロッパ文化遺産の日」は見学可能。その際には、普段フランス大統領が執務している部屋や、要人との会合で使われている部屋を見ることができます。

■エリゼ宮(palais de l'Elysée)
・住所: 55 Rue du Faubourg Saint-Honoré 75008 Paris
・最寄り駅: 地下鉄1・13号線Champs-Elysées-Clémenceau
・URL: https://www.elysee.fr/

劇中で絵画の行方の鍵を握るサウジアラビア皇太子 ©2021 Zadig Productions (c) Zadig Productions ‒ FTV
劇中で絵画の行方の鍵を握るサウジアラビア皇太子 ©2021 Zadig Productions (c) Zadig Productions ‒ FTV

「サルバトール・ムンディ」は、各国の美術界を巻き込んでいきますが、その鍵のひとつがサウジアラビアです。同国のフランスにおける在外公館が、シャンゼリゼ大通りと高級住宅街が広がるパリ市内17区の間に位置する在フランス・サウジアラビア王国大使館です。

在フランス・サウジアラビア王国大使館は、在フランス日本国大使館からも近く、それらのすぐそばには、18世紀後半オルレアン公の命により造られたモンソー公園があります。公園内にある古代ローマの海戦場を模した楕円の池とコリント式柱廊の景色は、特に有名です。

■在フランス・サウジアラビア王国大使館(Ambassade d'Arabie saoudite en France)
・住所: 92 Rue de Courcelles 75008 Paris
・最寄り駅: 地下鉄2号線Courcelles
・URL: https://embassies.mofa.gov.sa/

パリから少し足を延ばして訪れるダ・ヴィンチゆかりの館「クロ・リュセ」

パリから少し足を延ばして訪れるダ・ヴィンチゆかりの館「クロ・リュセ」
ロワール川とアンボワーズ城 ©iStock

ダ・ヴィンチそのものの生涯に焦点をあせてみると、パリ以外にもゆかりの地を見つけることができます。パリから列車で約2時間の場所にあるアンボワーズです。

レオナルド・ダ・ヴィンチの自画像  ©iStock
レオナルド・ダ・ヴィンチの自画像  ©iStock

なぜアンボワーズにダ・ヴィンチがいたかというと、イタリア遠征時にイタリアの洗練された生活に魅せられたシャルル8世は、画家、建築家、造園家、料理人、仕立て職人など、あらゆる文化の担い手を、1496年にイタリアからアンボワーズへ呼び寄せました。その中のひとりがダ・ヴィンチでした。

そのアンボワーズの町のランドマーク的存在がアンボワーズ城です。その城壁内にある聖ユベール礼拝堂にはダ・ヴィンチの墓があります。礼拝堂自体は、ゴシックフランボワイヤン様式の傑作といわれ、シャルル8世がイタリアに心酔する以前にフランドルから呼び寄せた彫刻家たちによって造られた作品です。

■アンボワーズ城(Château d'Amboise)
・住所: Montée de l'Emir Abd el Kader, 37400 Amboise
・最寄り駅: Gare d'Amboise
・定休日: 1月1日、12月25日
・URL: https://www.chateau-amboise.com/
※営業時間は、月によって細かく変動しますので、こちら(https://www.chateau-amboise.com/fr/page-informations-pratiques)から確認してください

アンボワーズ城から徒歩で南東に500mほど下った先にあるのがクロ・リュセ城。晩年のダ・ヴィンチがフランス国王フランソワ1世から与えられた館です。

クロ・リュセ城の内部 ©Yukinobu Shuzui
クロ・リュセ城の内部 ©Yukinobu Shuzui

ダ・ヴィンチは、ここで1516年から没する1519年5月まで過ごしました。現在は美術館となっており、ダ・ヴィンチが息を引き取った寝室、客人を迎え入れていた大広間などが再現されています。

館を囲む敷地はレオナルド・ダ・ヴィンチ・パークとなっています。画家であり発明家でもあったダ・ヴィンチの発明品が再現され、遊具として遊べるようになっています。

■クロ・リュセ(Clos Lucé)
・住所: 2 Rue du Clos Lucé, 37400 Amboise
・最寄り駅: Gare d'Amboise
・営業時間: 1月 10:00〜18:00、2〜6月 9:00〜19:00、7・8月 9:00〜20:00、9・10月 9:00〜19:00、11・12月 9:00〜18:00
・定休日: 1月1日、12月25日
・URL: https://www.vinci-closluce.com/

映画を鑑賞したあとは、いつかのフランス旅行に向けて芸術を楽しむ旅行プランを立ててみませんか?

旅のバイブル「地球の歩き方」ガイドブック

旅のバイブル「地球の歩き方」ガイドブック

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■地球の歩き方 ガイドブック A07 パリ&近郊の町 2021年~2022年版
・URL: https://hon.gakken.jp/book/2080127200

≫≫≫(関連記事)「パリの世界遺産セーヌ川観光のすすめ クルーズで主要モニュメントを一気に攻略」の記事はこちら

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新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、上記記事内で紹介した映画において、公開日・上映館の変更、中止・延期の可能性があります。最新情報は、公式ウェブサイト(URL)などで確認してください。
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※当記事は、2021年11月22日現在のものです

筆者

フランス特派員

守隨 亨延

パリ在住ジャーナリスト(フランス外務省発行記者証所持)。渡航経験は欧州を中心に約60カ国800都市です。

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