芸術に人生を捧げた孤高の画家ゴッホに魅せられた複製画制作の舞台裏。映画『世界で一番ゴッホを描いた男』

公開日 : 2018年10月16日
最終更新 :
映画『世界で一番ゴッホを描いた男』
映画『世界で一番ゴッホを描いた男』

フィンセント・ファン・ゴッホ。後期印象派を代表する画家でありながら生前は不遇な人生を送ったといっても過言ではありません。自分の命を削りながら一筆一筆をキャンパスに自身をぶつけ、芸術に人生を捧げて芸術の高みを目指したゴッホ。そんなゴッホに魅せられた男が中国にいました。20年にわたりゴッホの複製画を描き続け、本物の絵画を見たいと夢み、ゴッホに人生を捧げる男の姿を追った感動のドキュメンタリー映画『世界で一番ゴッホを描いた男』が2018年10月20日(土)、新宿シネマカリテ、伏見ミリオン座ほか全国順次ロードショーとなります。

『世界で一番ゴッホを描いた男』ストーリー

『世界で一番ゴッホを描いた男』ストーリー
『世界で一番ゴッホを描いた男』ストーリー

【ストーリー】
複製画制作で世界の半分以上のシェアを誇る油絵の街、中国大芬(ダーフェン)。出稼ぎでこの街にやって来た趙小勇(チャオ・シャオヨン)は独学で油絵を学び、20年もの間ゴッホの複製画を描き続けている。絵を描くのも食事も寝るのも全て工房の中。いつしか趙小勇はゴッホ美術館へ行くという夢ができた。本物の絵画からゴッホの心に触れて何か気づきを得たい、今後の人生の目標を明確にしたいという思いと共に。

どうしても本物のゴッホの絵画を見たいという想いは日増しに募り、ついに夢を叶えるためにアムステルダムを訪れる。

本物のゴッホの絵画を見て衝撃を受けた趙小勇はいつしか、自分の人生をゴッホの生き様に写し合わせ、何をすべきか自分を見つめ直すようになる。果たして自分は職人か芸術家か。思い悩んだ趙小勇はある決断をする―。

というストーリーです。

”油画村”とは

”油画村”とは
無造作に貼られた名画の複製

中国南部深圳市にある大芬(ダーフェン)は世界最大の「油画村」と呼ばれ、ゴッホをはじめとする有名画家の複製画が産業として確立しており、実に世界市場の6割の複製油画が制作されていると言われています。1989年香港の画商が20人の画工を連れてきたのがこの街の始まりで、現在、画工の数は1万を超えます。毎年、数百万点の油絵がこの街から世界中へ売られていき、その総額は2015年で6500万ドルを超えています。

ゴッホの自画像の複製画
ゴッホの自画像の複製画

深圳で画家を目指す者はまずは大芬にやってきます。複製画のみを手がける絵描きは「画工」と呼ばれ、「画家」と呼ばれるには公募展に3回入選しなければなりません。「画家」になると専用の住居に格安で入れるなど優遇政策がとられています。1万を超える絵描きが暮らす大芬で、「画家」の称号を手に入れたものは300人もいないといいます。最近ではオリジナルの作品を制作する「画家」も増えてきています。

画工、趙小勇の夢と憧れの地、オランダへ

画工、趙小勇の夢と憧れの地、オランダへ
誰よりもゴッホの絵を描いてきた趙小勇

趙小勇(チャオ・シャオヨン)はこれまで誰よりもゴッホの絵を描いてきたのに、いまだ本物の絵画をみたことさえありませんでした。複製画制作はビジネス、自分はあくまで職人だと自分に言いきかせる一方、複製画にこだわりとプライドを持ち、単に職人と割り切れない芸術家としての葛藤も垣間見せます。果たして自分は鑑賞にたえる作品を生み出しているのだろうか、いち画家としてこれから何を目指すべきなのかと。その答えはアムステルダムにありました。本物の絵画を訪ねる旅は自分探しの旅でもあったのです。

ゴッホのようにより芸術の高みに到達したいと願い、自分は何をすべきかと苦悩する趙小勇の姿は時には滑稽でありながらその真摯でひたむきな姿に心を打ちます。

複製画からみえる世界経済と中国社会

複製画からみえる世界経済と中国社会
風に揺れる”ひまわり”

複製画ビジネスの切り口から世界経済、現代中国社会が透けて見えてきます。例えば高級な画廊で自分の絵画が販売されていると思いきや、実は街中の土産物屋で売られていて販売価格は卸値の実に8倍以上だったという、趙小勇が愕然とするシーン。実際にアムステルダムに赴くことで初めて複製画ビジネスのからくりを知ってしまいます。最近は中国の人件費もあがっている、画工のなり手がどんどん減ってきているとクライアントにその場で値上げ交渉をしてしまう一幕も・・。

また、趙小勇の高校生の娘が久々に家に帰ってくるシーンはいわゆる都市戸籍問題が描かれています。生まれも育ちも大芬にも関わらず親が出稼ぎのため都市戸籍がなくて都会の学校へ通う権利がないため、娘だけが田舎に返されたものの、方言が全く分からず先生が何を言っているか分からないという農村、都市間の深刻な戸籍問題が浮き彫りになっているのです。

ファン・ゴッホ美術館

ファン・ゴッホ美術館
ファン・ゴッホ美術館

Warrox [CC BY 2.5 ], via Wikimedia Commons

ファン・ゴッホ美術館は、1973年に開館したアムステルダムにあるゴッホの作品を中心とした美術館です。《じゃがいもを食べる人々》《ひまわり》《アーモンドの花咲く枝》《種まく人》などの傑作のほか、同時代のポール・ゴーギャン、ロートレックなどの作品、ファン・ゴッホが傾倒していた日本の浮世絵、盛んに模写をしたミレーなども展示されています。

■ファン・ゴッホ美術館
所在地:Museumplein 6, 1071 DJ Amsterdam, オランダ
入館料:大人(マルチメディア料金込みの入館料): € 23
大人(入館料のみ): € 18/子供(0-17歳): 無料
URL:https://www.vangoghmuseum.nl/ja/visitor-information-japanese

筆者

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