まるでアールデコの宮殿!カヴロワ邸で見る建築家マレ=ステヴァンスの軌跡(フランス・クロワ)

公開日 : 2018年06月25日
最終更新 :
筆者 : 冠 ゆき
カヴロワ邸 ©Kanmuri Yuki
カヴロワ邸 ©Kanmuri Yuki

フランス北部の町クロワ(Croix)の閑静な住宅街に建つカヴロワ(Cavrois)邸は、建築家ロベール・マレ=ステヴァンス(Robert Mallet-Stevens)の傑作とみなされています。マレ=ステヴァンスは、近代建築が台頭し、アールデコが流行した1920年代から30年代にかけて活躍した稀代の建築家です。今回は、その建築家マレ=ステヴァンスの世界が垣間見える、カヴロワ(Cavrois)邸を紹介します。

13年の修復を施して2015年から公開

13年の修復を施して2015年から公開
庭園が一望できるサロン ©Kanmuri Yuki

ロベール・マレ=ステヴァンス(Robert Mallet-Stevens)は、ル・コルビュジエ(Le Corbusier)と同年代、モダニズムを代表するフランスの建築家。カヴロワ(Cavrois)邸は、マレ=ステヴァンスの設計、内装によって、1929-32年に建てられた邸宅です。

第二次世界大戦時、この地域はドイツ軍の占領を受け、カヴロワ邸もドイツ軍に占拠されました。戦後再びカヴロワ家の手に戻ったものの、1986年に売却されたのちは、手入れもされることがなく、荒れるがままでした。

1990年に国の歴史建造物指定を受けた後も、しばらく放置されていましたが、2008年、国が国立モニュメントセンター(Le Centre des monuments nationaux、以下CMN)に管理を委託。フランス全国の城や美術館など100点近くのモニュメントを管理運営するCMNが、13年かけて細かでていねいな修復を施し、2015年6月に博物館として公開の運びとなりました。

以来、国内外から訪問客が大勢訪れ、2017年末までの1年半で、すでに、延べ324,000人を魅了した計算になります。

建築と家具の一体感

建築と家具の一体感
子どもたちのダイニングルーム。壁と家具が同じ木材 ©Kanmuri Yuki

カヴロワ邸の外観は珍しい黄色いレンガが印象的で、アールデコの直線的で機能的な輪郭をしていますが、広い庭の池に映る姿には、気品を感じます。

1932年の建築当時の姿に近づけるため、当時の家具を追跡し、買い戻したり、修復したりしています。というのも、マレ=ステヴァンスは、部屋ごとに、壁などの内装と同じ木材で家具を制作しており、トータルしてはじめてその世界がよりよく味わえるからです。

主寝室。家具と扉枠が同じ木材 ©Kanmuri Yuki
主寝室。家具と扉枠が同じ木材 ©Kanmuri Yuki

庭園もまた、周りの土地が失われたため、建設当初より規模は縮小されましたが、できるだけ当時の形に近く復元されています。

繊維産業で財を成したポール・カヴロワ

繊維産業で財を成したポール・カヴロワ
カヴロワ邸庭園 ©Kanmuri Yuki

カヴロワ邸を注文したのは、繊維産業で財を成したカヴロワ=マイユー(Cavrois-Mahieu)社のオーナー、ポール・カヴロワ(Paul Cavrois)でした。20世紀初頭、フランス北部はもっとも工業化が進んだ地域で、特にテキスタイル産業が発達しました。カヴロワ=マイユー社は、 1923年には、工場を5つ経営し、700人の従業員を抱える規模だったそうです。

カヴロワ家には、子供が7人いたため、カヴロワ邸には、多くの子供部屋のほか、子供専用のダイニングルームやミニ劇場にも使えるプレイルームなどが揃っています。

また見学する人にぜひ注目してもらいたいのが、照明の使い方です。担当したのは、ペルフェクラ社を経営するアンドレ・サロモン(Andre Salomon)でした。どこも徹底的なほどの間接照明で、建築内装に組み込まれるようにして作られています。これらの照明は、明るいけれども目に刺さらない柔らかい印象の光で、屋内を包みます。

9月まで開催される写真展

9月まで開催される写真展
パリ9区オスマン通りのブラジルコーヒー店(1928)、写真:撮影者不詳、Collection Jean-Louis Cohen

現在、このカヴロワ邸で、「ロベール・マレ=ステヴァンスと、カメラマン」展が開催されています。 ジャン=ルイ・コーエン コレクションから選ばれた50枚ほどの写真が、館内に展示されています。

実は、マレ=ステヴァンスの業績や作品に関する文献は、ほぼすべて失われており、コーエン・コレクションは、現存する唯一のマレ=ステヴァンスの跡を辿る手がかりです。このコレクションは、1920年代初頭から1939年最後の作品に至るまでのマレ=ステヴァンスの軌跡が見て取れます。

未完成のポール・ポワレ邸、メジー・シュル・セーヌ(1921-23)写真:REP. Collection Jean-Louis Cohen
未完成のポール・ポワレ邸、メジー・シュル・セーヌ(1921-23)写真:REP. Collection Jean-Louis Cohen
ノワイユ子爵邸、イエール(1923-28)中庭と芝生、写真:Thérèse Bonney. Collection Jean-Louis Cohen
ノワイユ子爵邸、イエール(1923-28)中庭と芝生、写真:Thérèse Bonney. Collection Jean-Louis Cohen

たとえば、カヴロワ邸と並び、三部作ともいえる、服飾デザイナーのポール・ポワレ(Paul Poiret)の邸宅(1921-23)と ノアイユ子爵の避暑宅(1923-28)の写真を並べてみるのも、非常に興味深いところです。

パリの16区には、マレ=ステヴァンスの名を冠した通りがあります。その名の通り、マレ=ステヴァンスの設計した建物が複数並ぶ通りです。マレ=ステヴァンス夫妻の個人宅も1926-27年、ここに建てられました。

マレ=ステヴァンス夫妻宅、パリ16区マレ=ステヴァンス通り(1926-27) ホール・サロン、写真:L’Illustration. Collection Jean-Louis Cohen
マレ=ステヴァンス夫妻宅、パリ16区マレ=ステヴァンス通り(1926-27) ホール・サロン、写真:L’Illustration. Collection Jean-Louis Cohen

コーエン・コレクションには、戦前のカヴロワ邸の様子をうかがえるものも多く、 特にインテリアの修復や復元の際、隅々まで参照されました。

いかがでしたか。これから庭園がますます美しくなる時期、アールデコの宮殿にも見えるカヴロワ邸を訪れて、稀代の建築家マレ=ステヴァンスの世界を覗いてみませんか。

筆者

フランス特派員

冠 ゆき

1994年より海外生活。これでに訪れた国は約40ヵ国。フランスと世界のあれこれを切り取り日本に紹介しています。

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