世界自然遺産に登録された奄美大島を楽しむ方法

公開日 : 2022年05月16日
最終更新 :
ヒカゲヘゴが茂る金作原。ジャングルのような雰囲気だ
ヒカゲヘゴが茂る金作原。ジャングルのような雰囲気だ

いつもの旅にSDGsの視点を――。SDGsとは持続可能な開発目標のこと。近年、観光分野でもSDGsを取り入れたスポンシブルツーリズム(環境への負荷を考え、責任を持って旅をする)という考え方が注目されています。旅行者は、どのように旅をすればSDGsをふまえた旅が実践できるのでしょうか。今回は奄美大島の自然とその楽しみ方を、奄美大島エコツアーガイド連絡協議会会長の喜島浩介さんに教えていただきました。

奄美大島の自然の特徴は?

奄美大島の自然の特徴は?
山、川、海。変化に富んだ自然も奄美大島の特徴のひとつ

2021年7月26日、徳之島・沖縄本島北部・西表島とともに 世界自然遺産に登録された奄美大島。貴重な固有種や、絶滅のおそれのある動植物の生育地としての重要性が認められ、国内で5つ目の自然遺産となりました。鹿児島県には、もうひとつの自然遺産、屋久島があります。実は、日本国内で2つの自然遺産をもつのは鹿児島県だけ。しかし、同じ自然遺産でも奄美大島・徳之島と屋久島は登録された理由が異なります。屋久島はそこにすむ動植物の特異な生態系や、ほかに類をみない自然美、自然現象で登録されたのに対し、奄美大島・徳之島は生物多様性が評価されたのです。奄美大島は地理的に生物生息域の北限と南限、両方の境目。また数百万年前に大陸から分離し、島で独自の進化を遂げた生物が固有種、固有亜種として生息しています。おもにこの2つの要因から多様な生物が育まれ、なんと日本の国土の面積の0.2%に満たない奄美大島で、国内全体の生物種の約13%が確認されています。しかし、世界遺産登録までの道のりには紆余曲折がありました。

3年の準備期間をもらい高まった自然保護の意識

3年の準備期間をもらい高まった自然保護の意識
金作原の遊歩道には、さまざまな植物が繁茂する

「実は奄美大島の世界遺産登録は2018年に一度、延期となっています。理由はいくつかありますが、推薦エリアに飛び地が多くエリア選定を見直すよう求められたほか、マングースやノネコなどの外来種への対策、登録後の観光客増加に対する管理計画、人為的な影響や地球温暖化が絶滅危惧種に与える影響を継続して調査するモニタリングの必要性などが挙げられました。登録延期と聞いたときはもちろんがっかりしましたが、反面、しかたないという気持ちもありました。島ではまだ自然保護に対して体系的に取り組んでいるとはいえない状況でしたが、“世界遺産”という言葉が一人歩きし、期待を持って訪れる旅行者が増えていました。エコツアーガイドの人数が足りないほか、何を見てもらうのか、島として自信を持って紹介すべきものが曖昧だったのです」。
そう語るのは奄美大島エコツアーガイド連絡協議会会長の喜島浩介さん。

ガイド歴20年のベテラン、喜島浩介さん
ガイド歴20年のベテラン、喜島浩介さん

「3年という準備期間に、さまざまな試みを実践しました。自然を守るという点では、自然遺産スポットとして人気の金作原に、2019年 2月から入場規制ルールを設けました。近年、金作原では利用者の増加により自然環境の破壊が懸念されていました。そこで、認定エコツアーガイド同行に加え、同時間帯に進入できる車は8台までと決めて、環境保全や混雑緩和に務めました。3年たった今、道路の路肩の植生はかなり回復しています。また、ソフト面ではガイドの育成・教育に力を入れました。現在奄美大島には認定ガイドが78名います。自然や歴史、文化などの基本的な知識はもちろんですが、それぞれに得意分野をもった個性豊かなガイドが揃っています」。

ユネスコの諮問機関に一度見直しを求められたことで、改めて島の自然を守り、受け継いでいくことの難しさを島の人々が再認識したと喜島さんは言います。2021年10月からは、住用町奄美市道三太郎線で夜間利用のルールが試行されています。

アマミノクロウサギ。年間約50件のロードキルが発生している ©林幹根スタジオ / PIXTA(ピクスタ)
アマミノクロウサギ。年間約50件のロードキルが発生している ©林幹根スタジオ / PIXTA(ピクスタ)

「近辺はアマミノクロウサギの頻出地域として夜間の見学者が増え、ロードキルや野生動物へのストレス増加などの悪影響が報告されていました。そこで、エコツアーガイドの同行を求めたり、市道三太郎線の通行を30分ごとに双方向からそれぞれ1台と制限することが決定したのです。
実は金作原も三太郎線も法的な効力はない自主規制ルール。現状では自然保護のためであれ、罰則を設けた規制を作るのは容易ではなく、島を守るために島の人々が定めた自主ルールなのです。ですが、島のかけがえのない動物や自然環境を守るために、旅行で訪れる皆様にもぜひ尊重していただきたいと思います」。

多様な生態系を育む奄美の自然を楽しむには?

多様な生態系を育む奄美の自然を楽しむには?
静けさに包まれた屋鈍海岸。ビーチでのんびりするだけでもいい

旅行者はどのようにしたら奄美の自然を思いっきり楽しめるのでしょうか?
「やはりエコツアーガイド同行のツアーを利用するのがおすすめです。奄美の自然の魅力は世界遺産に登録された認定要件にもある通り“生物の多様性”なのですが、森に入り、出合う動植物を一つひとつ見て、気になったら図鑑で調べて…としていたらきりがありません(笑)。もちろんそれもひとつの過ごし方だと思いますが、研究者でもない限りきっと飽きてしまうと思うんです。ガイドはそれぞれに得意分野があり、奄美のことを深く知っていただくためにさまざまな工夫をしています。お客さんの見たいものをヒアリングしてそれを見ていただくことはもちろん、私自身で言えば、奄美の風、空気を伝えることを大切にしています。風が運んでくる海からの潮の匂いや花の香り、鳥のさえずり…。島を包み込む空気は我々に多くのことを教えてくれます。そこから、自然のこと、動植物のこと、人の暮らし、伝統、文化、そして歴史…。相互に繋がる事柄を多方面から知っていただければ奄美の旅がより思い出深いものになると思うんです。とはいえ、そんな難しいことを考えず、浜辺でぼーっと過ごすのもおすすめです。数日間、奄美の森やビーチで過ごすだけで、来たときとは全く違う表情で帰っていく旅行客の姿をたくさん見てきました。それも奄美の自然のもつ力のおかげでしょう。それから、奄美って意外と広いのでできれば数日間滞在してください。実はそれが奄美を楽しむための最大のコツかもしれません」。

宇検村にあるガジュマルに抱かれたバス停
宇検村にあるガジュマルに抱かれたバス停

「森が注目されがちな奄美大島ですが、私としては、集落のおじいおばあたちとふれあって欲しいと思っています。おじいおばあが方言でおしゃべりしているのを聞いていると、眠くなってくるんですよ(笑)。昔話を聞いているような、心地よいまどろみに包まれるんです。ぜひ、旅行者も集落に足を運んでいただきたいですね。そして、将来的にはそうしたところへもきちんとお金が循環する仕組みを作りたいと思っています。それもツーリズムとして長く続けていくための、大切な要素だと思うのです」

ルリカケスは奄美大島と徳之島にしか生息しない固有種 ©feathercollector / PIXTA(ピクスタ)
ルリカケスは奄美大島と徳之島にしか生息しない固有種 ©feathercollector / PIXTA(ピクスタ)

「世界遺産に登録されたことにより、奄美を訪れる旅行者が求めるものがぐっと深くなったのを感じます。これまでは“金作原に行きたい”という方が多かったのですが、“金作原でオオタニワタリが見たい”という具体的な希望、文化や伝統に関する質問も多くなりました。海外からの旅行客はバードウオッチングが目的ということが多く、海を越えてさらにこんな小さな島にまでやってくるだけあって、その熱量は半端ではありません(笑)。私たちガイドも、島の案内人としてそれらの希望や質問に答えられるよう、さらなる勉強が必要だと痛感しています。島の新たな一面にふれるたび、ますます奄美という島に魅了されています」。

※当記事は、2022年5月16日現在のものです

ディレクション: 曽我 将良
編集: 株式会社アトール
協力: 公益社団法人鹿児島県観光連盟

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筆者

地球の歩き方観光マーケティング事業部

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