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夢は日本一のコーヒー産地。徳之島コーヒープロジェクト実現への道

2022年05月15日

徳之島伊仙町でコーヒー農園を営む吉玉誠一さん

いつもの旅にSDGsの視点を――。SDGsとは持続可能な開発目標のこと。近年、観光分野でもSDGsを取り入れた、レスポンシブルツーリズム(環境への負荷を考え、責任を持って旅をする)という考え方が注目されています。世界自然遺産に登録された島々の自然や人々の暮らし・文化などを、この先、子どもや孫の世代まで残すには何をすべきなのか?今回は徳之島コーヒー生産者会会長の吉玉誠一さんに徳之島産コーヒーの産業化への挑戦について伺いました。

知られざるコーヒーの産地・徳之島で動き出した一大プロジェクト

コーヒーチェリーと呼ばれる赤く熟した果実

世界有数のコーヒー消費国である日本。近年では世界各地の産地から豆を選べるコーヒー専門店も見慣れたの存在となっていますが、国産のコーヒーを見かけたことのある人はほとんどいないはず。一般にコーヒーはコーヒーベルトと呼ばれる北緯25度から南緯25度の間の熱帯地域での栽培が適していると言われていますが、日本は沖縄地方の一部や小笠原諸島がようやくその北限に含まれる程度。そのため国内でのコーヒー栽培はごく一部の地域に限られ、ましてや全国に流通させるほどの量産化は実現されていないのです。

しかしそうしたこれまでの常識を覆してしまうようなビッグプロジェクトが奄美群島の徳之島で進行しています。その名は「徳之島コーヒー生産支援プロジェクト」。2017年に発足したこのプロジェクトでは、嗜好飲料メーカーの味の素AGFと総合商社の丸紅、島内のコーヒー生産者と伊仙町役場とがタッグを組み、「徳之島コーヒーブランドを全国に」という大きな目標を掲げて活動しています。

キャッサバがつないだコーヒー栽培の夢

取材当日に吉玉さんが収穫したもの。黄色い実をつける種もある

「コーヒーは育苗してから収穫できるようになるまで4〜5年かかる。ようやくプロジェクト発足時に植えた木が実をつけ始めたところだな」

収穫したばかりのコーヒーチェリーを手に、吉玉誠一さんはそう教えてくれました。吉玉さんは徳之島コーヒー生産者会の会長であり、40年前に島内で初めてコーヒー栽培を手掛けた「徳之島コーヒーの父」でもあります。
コーヒーベルトの一般論に照らし合わせれば、北緯27度50分付近に位置する徳之島はコーヒー栽培に適しているとは断言し難い。それにも関わらず先例のなかった徳之島で、なぜコーヒー栽培にチャレンジしようと考えたのか。そこには吉玉さんなりの仮説があったといいます。

吉玉さんの農園に自生しているキャッサバの木

「キャッサバって知ってるか?ブラジルとかの中南米が原産のイモ類なんだけど、その熱帯作物が徳之島に自生していたんだ。どうやら戦時中の食糧難の時代に海外から持ち込まれたものらしいんだが、ともかくキャッサバが育つならこの島でコーヒーだって育てられるんじゃないかと考えたのよ」

熱帯作物への知見は、10代の頃に農業従事者としてブラジル移民を志していた吉玉さんならではのものでした。結局移民の夢は潰えて大阪で職に就いていましたが、36歳で一念発起、農業の道に進むため妻の道子さんとともに徳之島へ移住。サトウキビ栽培に精を出すさなかにキャッサバを発見した吉玉さんは、蘇る若かりし日の記憶とともにコーヒー栽培を思い立ったのです。

先達なきコーヒー栽培に挑む孤軍奮闘の日々

窪地を利用した農園。8種350本のコーヒーノキが植樹されている

未知なるコーヒー栽培の第一歩は、コーヒーの苗木を探す東奔西走の旅から幕を開けました。期待していた沖縄で成果を得られずがっくり肩を落としていたところ、奄美大島の宇検村にコーヒーノキの所有者がいると聞きつけ、焼酎を2本下げて現地へ急行。無事100本の苗木を譲り受けることができたそうです。

ようやくスタートラインに立った吉玉さんでしたが、仮説通りに島でコーヒーが育つのかは全くの未知数。まずはどんな環境が栽培に適しているのかを調べる必要がありました。

「とりあえず北から南、海から山まで植えて実験してみたんだ。その結果、島の北側は北風で気温が低下してダメ、海の近くは塩害でダメ、山は冬場の寒さでダメ。厳しい結果が続くなか、赤い実をつけたのが島の南部に位置する伊仙町だった。
苗が育つ何よりの条件は、防風対策ができる土地であること。サトウキビ畑のように整地された土地は適さず、むしろ耕地が狭くて農地に適さないと放棄されていたような土地との相性がいいことがわかった。伊仙町はそうした条件の土地があり、赤土で水も豊富にある。コーヒー栽培をするなら伊仙町だろうと結論を出したんだ」

自営する喫茶店「珈琲スマイル」にて、妻の道子さんと

当時はコーヒー栽培に関する情報などほとんど出回っていない時代。「美味しいコーヒー」を生む生育条件とは何なのか。防風対策や肥料づくり、剪定のタイミングとやり方は何が正しいのか。その後も試行錯誤は続き、ようやく品質が認められるまでになったのはコーヒー栽培をはじめて7年後のことでした。

当初は収量も少なく、自家消費がやっとの規模。そこから妻が営む犬田布岬の喫茶店「珈琲スマイル」で徳之島産の自家焙煎コーヒーを通年提供できるまでになり、2000年に徳之島コーヒー生産者組合(現生産者会)を設立。コーヒーを吉玉さん個人の活動を超えた島の特産品とすべく、町や他の生産者へ積極的に働きかけを行うようになりました。そうした長く地道な活動が大手企業の目に留まり、2017年の徳之島コーヒー生産支援プロジェクトの発足までにつながったのです。

日本一のコーヒーアイランドを目指して

非売品ながら徳之島コーヒーのドリップバッグも製品化された

プロジェクトを立ち上げて丸5年。これまで育苗した苗木は実に約2万本にものぼります。いずれも徳之島では未栽培だった品種で、「今後は生育状況を見ながら徳之島の気候や土壌と相性のよい奨励種を見定めていく」と吉玉さん。現在では30名近くのコーヒー農家が参画し、より多くの収穫量に対応できるよう精選施設も整えられました。

「手間のかかる育苗は島内の障害者支援施設と徳之島高校に委託してね。高校生には授業の一環として植え付けや木の世話、収穫も手伝ってもらっているんだ。コーヒーを島の産業の柱にするためには若い世代への引き継ぎが必要不可欠。俺たちだけでできることはたかが知れている。『コーヒーはこうやってできるんだ』という原体験が、やがてコーヒー栽培に憧れ志すきっかけになってくれればいい」

当面の目標である1tベースの収穫量に「果てしないね」と笑う吉玉さん。作付面積を増やすためにはより多くの人たちの協力が不可欠。そのためにも「いいものを作り、コーヒーが島の経済に寄与できることを実証しなくてはならない」と冷静に先を見据えます。

40年前、ひとりの移住者の思いつきから始まったコーヒー栽培。当時は誰が今の状況を想像することができたでしょうか。「コーヒーを味わうためにちょっと産地まで」。そんな旅のスタイルが徳之島に定着した未来も、そう遠くはないかもしれません。

果肉を除去した後のパーチメント(殻付き)コーヒーが並ぶ乾燥室

■珈琲スマイル
・住所: 伊仙町大字犬田布1642-4
・TEL:  0997-86-8277
・営業時間: 10:00~18:00 月曜定休

※当記事は、2022年5月15日現在のものです

ディレクション: 曽我 将良
編集: 株式会社アトール
協力: 公益社団法人鹿児島県観光連盟

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