水の島・屋久島が生む特別な焼酎とその秘密とは

公開日 : 2022年05月14日
最終更新 :
本坊酒造屋久島伝承蔵工場長の田中智彦さん
本坊酒造屋久島伝承蔵工場長の田中智彦さん

いつもの旅にSDGsの視点を――。SDGsとは持続可能な開発目標のこと。近年、観光分野でもSDGsを取り入れた、レスポンシブルツーリズム(環境への負荷を考え、責任を持って旅をする)という考え方が注目されています。世界自然遺産に登録された島々の自然や人々の暮らし・文化などを、この先、子どもや孫の世代まで残すには何をすべきなのか?今回は本坊酒造屋久島伝承蔵の田中智彦所長に屋久島の水の恩恵で生まれる焼酎の美味しさの秘密を伺いました。

屋久島で受け継がれる手造り甕壷仕込み

屋久島で受け継がれる手造り甕壷仕込み
蔵に並ぶ約60壷の甕はすべて100年以上前に職人によって造られたもの

鹿児島県鹿児島市に本社を置く本坊酒造。経営理念に「地域文化の継承と革新」を掲げる同社が屋久島で焼酎造りを開始したのは1960年のこと。以降60年以上にわたり、地域に根ざした酒造りを行っています。

屋久島伝承蔵で造る焼酎の特徴を「手造り甕壺仕込みですね」と語るのは、所長の田中智彦さん。

「仕込みに使われる甕は、100年以上に渡り受け継がれたもの。要となる麹も手造りで、伝統的な製法で造られた少数・高付加価値ものの焼酎をこちらで造っています」

屋久島伝承蔵での年間の焼酎の製造量は、一升瓶換算で約5万本。これは鹿児島市内にある工場ではわずか2日間で製造する量にあたるそうで、屋久島伝承蔵では、それだけ希少価値の高い焼酎が小規模に生産されているという証左ともいえるでしょう。

屋久島の水の秘密は「超軟水」にあり

屋久島の水の秘密は「超軟水」にあり
山間部には豊富な水をたたえるダムもあり、水力発電に利用されている

焼酎を造る拠点として、なぜ屋久島が選ばれたのか。その理由は「水」を抜きにして語ることはできません。

「そもそも酒造りには大量の水が必要とされます。そのため工場や蔵を新たに建造する際には、まず水が豊富な土地を探すことが大前提となるのです」

屋久島は東京の年間降水量の2〜3倍にも及ぶ国内屈指の多雨の島。黒潮の海が島に運ぶ暖かく湿潤な空気は急峻な山々にぶつかり雨となり、無数の谷川となって島全体にくまなく水を供給しています。町の水道水も島内各所の水源地から取水されたものを利用しているそうです。

島内には140を数える河川があり、日本名水百選に選ばれた流水もある
島内には140を数える河川があり、日本名水百選に選ばれた流水もある

田中さんの話はさらに、屋久島特有の水質にまで及びます。

「焼酎の製造工程は順に『麹造り』、原料を発酵させてもろみを造る『仕込み』、出来上がったもろみに熱を加え、アルコールを含んだ水蒸気を冷やすことで原酒を造る『蒸留』、そして原酒に加水してアルコール度数を調整する『割水』に大きく分かれます。水は仕込みと割水で利用されますが、その際に水の特徴が焼酎そのもの特徴にも影響を与えることになるのです。では屋久島の水の特徴はというと、超軟水なんですね。とても柔らかく口当たりもなめらかで、その水を使用することで焼酎の香りの立ち方も繊細で柔らかなものに仕上がります」

水の硬度は水分中のカルシウムとマグネシウムの含有量で決まります。一般にヨーロッパの水の硬度が高いのは、雨水が地層をゆっくり浸透することで土壌に含まれるカルシウムやマグネシウムなどのミネラル成分をたっぷり含むから。対して屋久島は花崗岩とよばれる岩石で形成されているため、降った雨水は地下に浸透することなく岩肌を滑るように流れていきます。そのためミネラルの含有量の少ない、まろやかな超軟水となるのです。

屋久島の水と白豊が生んだ「水ノ森」

屋久島の水と白豊が生んだ「水ノ森」
島内限定販売の「水ノ森」。「私はお湯割りも好きです」と田中さん

屋久島伝承蔵で取り扱う焼酎は10銘柄ほど。なかでも人気の逸品が、島内限定販売の「水ノ森」。グリーンを基調としたラベルデザインは島内在住の画家・高田裕子さん作。水豊かな屋久島の森をイメージしたその幻想的な背景画と主張を抑えたシンプルな書体は見た目にも他の銘柄とは一線を画し、2011年の発売以来、屋久島伝承蔵の新たな顔として定着しています。

「水ノ森は仕込みも割水も屋久島の水を使用した芋焼酎。スッキリとキレもよく、屋久島伝承蔵のなかでは飲みやすいタイプの焼酎になります。ロックや水割りで味わうのがおすすめです。柔らかい水で割っていただくと、より香りの立ち方や口当たりもいいでしょう」

皮も実も白い白豊。「水ノ森」造りには欠かせない原材料だ
皮も実も白い白豊。「水ノ森」造りには欠かせない原材料だ

水ノ森の原料となるのは白豊という品種のサツマイモ。白い表皮が特徴で、焼酎にすることで柑橘系やハーブ系の爽やかな香りが感じられるのだと田中さんは話します。

「表皮に香り成分が多く含まれていて、皮をむかずそのまま仕込みます。香りが爽やかなサツマイモなので、どしっとした風味にはならない分、屋久島の水との相性がいいのが特徴。サツマイモの一部は自社で栽培し、あとは島内の農家さんに作っていただいています」

もろみの香りをかぐことで、発酵の状態を知ることができる
もろみの香りをかぐことで、発酵の状態を知ることができる

屋久島伝承蔵の特徴である「甕壷仕込み」もまた、焼酎の味わいを左右する大きな要素。「一般的なタンクでの仕込みでは出せない独特の個性が生まれるのが魅力です」と話す田中さんの背後には、いかにも年季の入った甕壷がずらり。約60壷ある甕は、100年以上に渡り受け継がれているという代物で、手入れや補修を施していまでも大切に使われています。

「甕壷の内側を触ると表面がザラッとしています。蔵の内部にはたくさんの蔵付きの酵母がいますが、甕壷のこの細かい凹凸にも、長年にわたって良質な酵母が住みついているのです。同じ原料、同じ製造方法でも甕壷が置かれた環境で風味が変わってしまうほどで、そこに酵母の影響があるのは間違いない。屋久島伝承蔵の焼酎はそうした個性を踏まえて楽しんでいただければと考えています」

焼酎造りの要である麹もまた職人の手造り。機械を使用せず、自然換気の麹室で五感を駆使して麹を育てるそう。最高の素材を使うだけでなく、ひとつひとつの工程に丹念に向き合うことで、ここ屋久島伝承蔵ならではの唯一無二の焼酎が生まれるのです。

土地の個性を味わう、地産地消の醍醐味

土地の個性を味わう、地産地消の醍醐味
熟成の時を待つ樽が並ぶ「マルス屋久島エージングセラー」

「焼酎ではありませんが、こちらもぜひご覧になってください」と最後に案内されたのは、無数のウイスキー樽が整然と並ぶ貯蔵庫。屋久島伝承蔵では2016年に「マルス屋久島エージングセラー」を開設し、屋久島で貯蔵・熟成された樽熟成ウイスキーを世に送り出しています。

「ウイスキーは寒冷地で造られるイメージがあるかもしれませんが、昨今では温暖な地域での製造も盛んに行われています。気候によって熟成の進み方も異なるため、その土地土地の環境を反映したウィスキーに仕上がるのです」

近年では屋久島伝承蔵の焼酎や屋久島で熟成したウイスキーを広めるため、島内のホテルと共同でテイスティングイベントやマリアージュイベントなどを積極的に開催しているそう。屋久島の個性が反映された焼酎やウイスキーを、屋久島で味わう。その幸福な地産地消を通じて、旅人は体の内からその土地に宿る自然や文化にも触れることになるのです。

通年で見学も受付中。9〜12月には仕込みの様子を見ることも可能だ
通年で見学も受付中。9〜12月には仕込みの様子を見ることも可能だ

■本坊酒造屋久島伝承蔵
・住所: 屋久島町安房2384
・TEL:  0997-46-2511
・営業時間: 9:00~16:30(見学可。要事前申込)
・定休日:12月29日~1月3日 ※臨時休業あり
・URL: https://www.hombo.co.jp/

※当記事は、2022年5月14日現在のものです

ディレクション: 曽我 将良
編集: 株式会社アトール
協力: 公益社団法人鹿児島県観光連盟

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筆者

地球の歩き方観光マーケティング事業部

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