【現地レポ】ノートルダム大聖堂の火災時、フランス・パリはどのような様子だったのか

公開日 : 2019年04月19日
最終更新 :
ノートルダム大聖堂
ノートルダム大聖堂

2019年4月15日夜、フランス・パリ市内のノートルダム大聖堂で火災が発生しました。翌16日には火が消し止められたものの、古い建造物で倒壊の危険があるということから大規模な放水を行うことができず、鎮火までに木材が使われていた屋根部分の消失や尖塔部分の倒壊など、建物は大きな被害を受けました。火災後、すぐにフランス国内および国外から多くの連帯の気持ちが寄せられ、大聖堂は修復へ向けて歩み出しています。

誰もが目を疑った火を吹くノートルダム

誰もが目を疑った火を吹くノートルダム
火に包まれるノートルダム大聖堂

火災の光景を見た瞬間は誰しも目を疑ったはずです。18時50分、ノートルダム大聖堂に火が立つと、それはすぐに大きな煙を伴い延焼していきました。けたたましく鳴る消防車のサイレンの音がパリの街に響き渡り、しばらくしてフランスの各メディアが打った火事の速報が次々とスマホの画面に流れてきました。

当時筆者は19時に夕食に呼ばれていたパリ市内13区の知人宅へ、5区のわが家から向かっていました。わが家からノートルダム大聖堂までは徒歩圏内です。その途中、当日集まる予定のメンバーの一人から全員に「ノートルダム大聖堂の方角に大きな煙がっている。どこか大聖堂の近くで火事ではないだろうか」と知人宅に着く直前あたりにメッセージが送られてきました。

知人宅に着きスマホで状況を確認すると、火事はノートルダム大聖堂自体から起きているという報道を続々と確認できました。思っていたより深刻な状況だったのです。

炎をあげるノートルダム大聖堂
炎をあげるノートルダム大聖堂

その後、SNSやニュースサイトでノートルダム大聖堂が燃え上がる様子があげられていきました。「あれだけ目立つモニュメントだし、すぐに気づいて消し止められるはずだし、そうあってほしい」と期待しつつも、一向に火の手は収まらずに燃え広がるばかりでした。その後、ついに尖塔が焼け落ちました。

尖塔が落下した瞬間、筆者の心も折られました。居ても立ってもいられず、招いてくれた知人に謝りながら早々に退出し、家に戻りました。

ノートルダム大聖堂を見守る市民
ノートルダム大聖堂を見守る市民

大聖堂は大きく燃えていました。今まで想像だにしないような光景でした。居合わせた人々はセーヌ川を挟んですぐ対岸にある大聖堂を呆然と見つめていました。目の前で燃え広がっていく大聖堂に対して何をできるわけでもなく、失っていく大切なものを見送ることしかできない、やるせない気持ちです。筆者はシャッターは切らねばと思い幾度かカメラを大聖堂へ向けましたが、やはりずっと現場にいるのはつらく、一度家に戻ることにしました。

その後、火が完全に消し止められたのは翌日でした。

火災後のシテ島周辺の様子

火災後のシテ島周辺の様子
鎮火後のノートルダム大聖堂

夜が明けると、朝からノートルダム大聖堂を見渡せるシテ島周囲には、多くの人が集まりました。昨晩同様に人々は沈痛な表情で焼け焦げた大聖堂を眺めていました。悪夢のようなだった出来事が、夜が明けても覚めず現実としてそこにあるといった雰囲気です。

火災から鎮火後まで、大聖堂の状態についてさまざまな情報が飛び交いました。2019年4月17日にAFP通信が火災より救い出された文化財の一覧を報じています。

円形のステンドグラス「ばら窓」
円形のステンドグラス「ばら窓」

ゴルゴダの丘で十字架に架けられたキリストの頭に載せられたという、いばらの冠は無事でした。1239年にコンスタンティノープルから持ち帰った聖遺物です。13世紀の国王ルイ9世(聖ルイ)のチュニックも助かりました。

大聖堂内のパイプオルガンは燃えなかったものの火事による損傷を受けている恐れがあるそうです。円形のステンドグラス「ばら窓」、鐘楼にかかる巨大な鐘「エマニュエル」も免れました。大聖堂内にある聖母マリア像37体と各絵画も被害はありましたが助かりました。

それぞれの心の中にある大聖堂

それぞれの心の中にある大聖堂
青空に映えるノートルダム大聖堂

ノートルダム大聖堂の火災は、フランス国民をはじめ多くの人々の心に喪失感をもたらしました。信仰として、パリの象徴として、身近な建物として、文化財として、人によって心への大聖堂の刻まれ方は異なるものの、遠い昔からパリの地に建ち、そして今後も当然のように鎮座していくであろう大聖堂への被害は、人々に大きな衝撃を呼び起こしました。

筆者個人としての思いを吐露すると、筆者にとっての大聖堂は家のような安心感のある存在でした。10年前パリに住みはじめた頃から大聖堂の近くに居を構えたため、大聖堂前の広場や、大聖堂を眺めながら渡るセーヌ川にかかる各橋は、馴染みの道のひとつでした。どこかへ出かける時、大聖堂を横目に見つつ遅刻しないように足早に前を通り過ぎたり、帰宅する際は大聖堂の前を選んで家に帰ることも多々でした。

季節と時間によってさまざまに表情を変える大聖堂の景色は、嫌なことがあってもパリを再び好きにさせてくれました。

季節や時間ごとにいろいろな顔を見せるノートルダム大聖堂
季節や時間ごとにいろいろな顔を見せるノートルダム大聖堂

夕刻のトゥルネル橋から見る大聖堂。赤く染まる空とシテ島によって二手に分かれて流れるセーヌ川の水面、河岸に植わるマロニエの繁茂した緑や秋に紅葉した木々が絵画のように混ざり合い、その中心に大聖堂が尖塔を天に突き刺すように鎮座します。その美しさは心にある筆者のもやもやを晴らし、スッと一陣の風を吹き入れてくれました。

皆が寝静まった深夜にほろ酔い加減で大聖堂前の広場を通る時、人もまばらにしんと静まり返った大聖堂正面のファサードは、月の下で白く光り輝いています。深夜、静かな大聖堂に出会うと、ふと独り占めしたような気分になりました。大聖堂の写真はたくさんあるはずなのに、自然とポケットからスマホを取り出して、その日も夜の大聖堂を撮っていました。

夜のノートルダム大聖堂
夜のノートルダム大聖堂

大聖堂を見るとパリに来て良かったといつも再認識できました。

ノートルダム大聖堂修繕の義援金について

ノートルダム大聖堂修繕の義援金について
櫓が組まれたノートルダム大聖堂

火災発生後、マクロン大統領、フィリップ首相、イダルゴ・パリ市長は現場へ赴きました。ノートルダム大聖堂の広場にてマクロン大統領は「このノートルダム大聖堂を、私たちは再建します。皆で手を携えて。これはフランスの運命の一部です。私は約束します。明日から早速、全国さらに国境を越えて寄付を募ります」と声明を出し、再建へ向けた道筋を早急につける決意表明を行いました。

現在、フランス内外ではウェブサイト上のフォームやクラウドファンディングなど、さまざまな形での募金活動が立ちあげられています。寄付といっても、集めた資金の使用用途の透明性、クレジットカード情報など支払い時の安全性など、きちんと調べてからでないと、せっかくの連帯の気持ちがうまく伝わらないことがあります。残念なことですが募金を語った詐欺も起きています。

再建が始まったノートルダム大聖堂
再建が始まったノートルダム大聖堂

在日フランス大使館は、フランス文化財センター、ノートルダム財団、文化遺産財団、フランス財団の4団体が、国とともに、だれもが透明性と安全性が確保された方法で協力できる組織として挙げています。

●フランス文化財センター(英語あり)
・URL:https://don.rebatirnotredamedeparis.fr/1/~my-donation?_cv=1

●ノートルダム財団(仏語のみ)
・URL:https://don.fondationnotredame.fr/fapp-notre-dame

●文化遺産財団(英語あり)
・URL:https://www.fondation-patrimoine.org/les-projets/sauvons-notre-dame-de-paris

●フランス財団(英語あり)
・URL:https://dons.fondationdefrance.org/givefornotredame/~my-donation?_cv=1

パリを見守るノートルダム大聖堂の尖塔
パリを見守るノートルダム大聖堂の尖塔

フランス政府は損傷を受けた部分の再建に向けて早々と準備を始めています。企業からの巨額の寄付も相次ぎました。マクロン大統領は「5年以内にノートルダム大聖堂を再建したい」とテレビ演説で述べました。焼け落ちた尖塔は国際的なコンペでアイデアを募集する予定です。

2019年4月18日にはパリ市庁舎前の広場で、ノートルダム大聖堂を救おうと尽力した人々を讃える式典が開かれました。今回の火災から大聖堂が立ち直り、すべての修繕が終わるまでは困難も多いでしょう。ただ「私たちの貴婦人」は、最悪の瞬間から今はすでに前に向かって進んでいます。

筆者

フランス特派員

守隨 亨延

パリ在住ジャーナリスト(フランス外務省発行記者証所持)。渡航経験は欧州を中心に約60カ国800都市です。

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