【福島・浜通りの歩き方vol.2】震災の記録と記憶と英知を集めた3つの場所で過去・現在・未来への学び

公開日 : 2022年01月27日
最終更新 :
富岡町にある廃炉資料館。映し出されるのは福島第1原子力発電所
富岡町にある廃炉資料館。映し出されるのは福島第1原子力発電所

浜通り、中通り、会津と呼ばれる3つの地方からなり、異なる気候風土を持つ福島県。豊かな自然と温暖な気候を持つ浜通り地方には、2011年の震災から時を経て、ひとつひとつ復興・再生へと向かう人々の姿がありました。シリーズ2回目は、双葉町、富岡町、楢葉(ならは)町で、地震、津波、原発事故という複合災害の記録と記憶、未来への学びの地をめぐります。

日常を見つめなおす場所。複合災害の記録と記憶を学ぶ

日常を見つめなおす場所。複合災害の記録と記憶を学ぶ
2階の展示室。震災直後からの詳細な資料、証言、記録などを展示

浜通り地方中央に位置する双葉町へと向かいます。震災から9年を経た2020年3月、避難指示がようやく解除された双葉町の中野地区。その半年後の9月に「東日本大震災・原子力災害伝承館」が開館しています。地震、津波、原発事故という複合災害を詳細な資料と映像で伝えること、その記録と記憶を教訓として防災や減災に役立てることが、この施設の目的となっています。開館から2021年末までに約9万5千人が訪れていることからも、その関心の高さがうかがえます。

地震で落下した証明器具(右)や津波で基礎ごと流されたポスト
地震で落下した証明器具(右)や津波で基礎ごと流されたポスト

では館内へと入ってみましょう。建物は3階構造であり、1階のプロローグシアターで俳優・西田敏行さんのナレーションによる約5分間の動画を視聴した後に、壁面に描かれた年表を見ながら、らせん状のスロープを上って2階の展示室へと移動します。展示室は「災害の始まり」「原子力発電所事故直後の対応」「県民の想い」「長期化する原子力災害の影響」「復興への挑戦」という各テーマごとに5つのエリアに分かれています。また各エリアとも実物資料に加えて、デジタルコンテンツによる「証言映像」により、震災当時の出来事を臨場感をもって見学できるように工夫されています。

事故後の福島第一原子力発電所の様子。立体での表現が細かい
事故後の福島第一原子力発電所の様子。立体での表現が細かい

「何が正解かというよりは、皆さんがご自身で考えられたことすべてが正解なのです」と話すのは広報担当の渡邊さん。見学の目安となる時間についてお聞きすると、「もしお時間があれば、約1時間は欲しいところです」とのことでした。訪れた人それぞれが思い思いに見学されているようで、ほぼ一日かけて展示を見ていかれる人もいるそうです。ちなみに2階の展示室にはアテンダントスタッフ(解説員)が常時配置されているので、展示資料の解説のみならず、震災当時の様子を聞きながら見学することも出来ます。

広報担当の渡邊さん。思い思いの見学をおすすめしてくれました
広報担当の渡邊さん。思い思いの見学をおすすめしてくれました
伝承館が建つ場所も津波の被害に。海からは500~700m
伝承館が建つ場所も津波の被害に。海からは500~700m

■東日本大震災・原子力災害伝承館
・住所: 福島県双葉郡双葉町大字中野字高田39
・電話: 0240-23-4402
・営業時間: 9:00~17:00(16:30最終入館)
・定休日: 毎週火曜日(12月29日~1月3日は休業)*詳細はホームページ参照
・料金: 大人 600円、小中高 300円
・アクセス: JR双葉駅からバス利用で約5分(シャトルバス運行中)
・URL: https://www.fipo.or.jp/lore/

ツアー形式で見学する、原子力事故の当時と廃炉プロジェクト

ツアー形式で見学する、原子力事故の当時と廃炉プロジェクト
実際には人が近づくことが難しい場所も、映像で見ることができる

東日本大震災・原子力災害伝承館から南に約15㎞、「廃炉資料館」を訪れました。JR常磐線・富岡駅近く、国道6号沿いの東京電力「旧エネルギー館」を再利用して設置されたもので、原子力事故の教訓、そして廃炉作業の現状と今後について、2018年11月より情報を発信しています。また、長期にわたる廃炉プロジェクトがどのように進んでいるのか、その“見える化”も廃炉資料館設置の目的となっています。

原子炉建屋内部の様子と作業状況が映像と組み合わせて再現される
原子炉建屋内部の様子と作業状況が映像と組み合わせて再現される

廃炉資料館は、事故当時の発電所内や中央制御室の状況、廃炉現場での燃料などの取り出し作業、福島第1原発の1号機から4号機の状況など、多数の映像と模型による視覚的な展示が行われています。見学は約60分のツアー形式となっており、少人数のグループ(各回7名程度)に分かれてガイドと一緒に各展示を見ていきます。ホームページに各回のツアー開始時間が表示されているので、事前の予約がおすすめです。

精緻な模型と実際の映像で福島第1原子力発電所の今を伝える
精緻な模型と実際の映像で福島第1原子力発電所の今を伝える

■廃炉資料館
・住所: 福島県双葉郡富岡町小浜中央378(旧エネルギー館)
・電話: 0120-502-957(予約受付・フリ-ダイヤル)
・営業時間: 9:30~16:30
・定休日: 毎月第3日曜日(年末年始は休業)
・料金: 無料(駐車場無料)
・アクセス: JR常磐線・富岡駅から徒歩15分(タクシーで約5分)
・URL :https://www.tepco.co.jp/fukushima_hq/decommissioning_ac/

遠隔操作と技術開発の現場を見る。世界の英知が道を開く

遠隔操作と技術開発の現場を見る。世界の英知が道を開く
楢葉遠隔技術開発センターの研究管理棟

廃炉資料館を後にして、3つ目の見学先となる「楢葉遠隔技術開発センター」を訪れました。ここは日本原子力研究開発機構の福島研究開発部門に所属し、福島第一原子力発電所の廃炉プロジェクトの推進、福島復興へ貢献するための施設となっています。2016年4月から本格運用が始まっているこのセンターでは、強い放射線の影響で人による作業が困難な環境において、人にかわって作業を行うロボットなどの遠隔操作機器の開発実証試験が行われています。

建屋内部を正面、右、左、床の4面スクリーンに3Dで再現(*)
建屋内部を正面、右、左、床の4面スクリーンに3Dで再現(*)

楢葉遠隔技術開発センターは研究管理棟と試験棟の2つの施設に分かれています。まずは、研究管理棟のほうで施設全体の説明を受けてから、バーチャルリアリティ(VR)システムの見学・体験へと移っていきます。このVRシステムは、人が入ることができない現場での作業をシミュレーションするために開発されたものです。あたかも原子炉建屋内を移動しているような3D映像を前にすると、その精度の高さゆえに不思議な没入感がありました。

ロボット試験用水槽は水質や温度などを変えることができる(*)
ロボット試験用水槽は水質や温度などを変えることができる(*)

次に試験棟に場所を移して、ロボット試験用水槽、モックアップ階段などの設備を見学していきます。例えば、原子炉内部は水没しているところが多いため、水中でロボットを操作する必要があります。そのための設備として、ロボット試験用水槽が利用されています。また、原発内には様々な階段が配置されているそうで、そういった現場での作業を想定したロボットの昇降動作試験を行うためにモックアップ階段が利用されています。

モックアップ階段では角度や材質等を変えて実験が行われる(*)
モックアップ階段では角度や材質等を変えて実験が行われる(*)

こうして行われる様々な実験とVRシステムでのシミュレーションデータを組み合わせて廃炉という課題に取り組んでいるセンターは、英知を集めた遠隔技術の開発、それを動かすための操作者の訓練の場となっています。もちろん一般見学が可能ですが、あくまでも研究施設という場所柄、事前の申し込みが必要です。電話での問い合わせを行った上で、見学の2週間前までに書類提出が必要となっています。手続きの詳細はホームページでご確認ください。

高さ40m、幅60m、奥行80mと実験棟は実に巨大だ(*)
高さ40m、幅60m、奥行80mと実験棟は実に巨大だ(*)

■楢葉遠隔技術開発センター
・住所: 福島県双葉郡楢葉町山田岡仲丸1-22
・電話: 0240-26-1040(9:00~17:00)
・見学時間: 45分~60分(見学内容による)
・申込手順: 下記URLを参照
 https://fukushima.jaea.go.jp/visit/decommissioning.html
・アクセス: JR常磐線木戸駅から徒歩30分*木戸駅は無人駅なので、あらかじめタクシー(楢葉タクシー)を予約したほうが良い/常磐自動車道広野ICから約8分
・URL: https://naraha.jaea.go.jp/

取材・文=植木孝(地球の歩き方)
撮影=森田健一(ビュープランニング)
画像提供:日本原子力研究開発機構(*印)

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※当記事は、2022年1月27日現在のものです

筆者

地球の歩き方書籍編集部

1979年創刊の国内外ガイドブック『地球の歩き方』の書籍編集チームです。ガイドブック制作の過程で得た旅の最新情報・お役立ち情報をお届けします。

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