【福島・浜通りの歩き方vol.6】古からの暮らしと文化を受け継ぐこと、そして人々の拠り所を考える

公開日 : 2022年04月27日
最終更新 :
福島県相馬地方の伝統行事、相馬野馬追
福島県相馬地方の伝統行事、相馬野馬追

浜通り、中通り、会津と呼ばれる3つの地方からなり、異なる気候風土を持つ福島県。豊かな自然と温暖な気候を持つ浜通り地方には、2011年の震災から時を経て、ひとつひとつ復興・再生へと向かう人々の姿がありました。シリーズ最終回となる今回は、南相馬市から浪江町へと向かいます。

先祖伝来の鎧兜で身を固め、甲冑武者として疾走する相馬野馬追

先祖伝来の鎧兜で身を固め、甲冑武者として疾走する相馬野馬追
相馬野馬追の行事2日目に行われる甲冑競馬

2006年1月に小高町、鹿島町、原町市の3つが合併して誕生した南相馬市は、毎年7月下旬に行われる伝統行事「相馬野馬追(そうまのまおい)」で知られています。今から千年以上も前に、相馬家の祖といわれる武将・平将門が、野馬を放ち敵兵に見立てて行った軍事訓練がその始まりといわれています。

甲冑競馬とともに行事のハイライトとなる神旗争奪戦
甲冑競馬とともに行事のハイライトとなる神旗争奪戦

相馬野馬追は相馬地方で3日間にわたって行われる行事です。野馬追初日の「お繰り出し」から始まり、2日目には騎馬武者が町中を連なる「お行列」、旗指物をなびかせて疾走する「甲冑競馬」や「神旗争奪戦」、そして3日目には裸馬を追い込んで奉納する「野馬懸(のまかけ)」と続いていきます。先祖伝来の鎧兜で身を固めた、戦国時代を想わせる勇壮な騎馬武者たちの姿を見られる相馬野馬追。相馬地方には独自の歴史と伝統が受け継がれています。

行事3日目に行われる野馬懸。裸馬と対峙する姿は勇壮そのもの
行事3日目に行われる野馬懸。裸馬と対峙する姿は勇壮そのもの

■相馬野馬追(国指定重要無形民俗文化財)
・開催時期: 毎年7月の最終土・日・月曜日
・開催場所: 相馬地方
・メイン会場: 雲雀ケ原祭場地(南相馬市原町区牛来字出口地内)
・URL: https://www.city.minamisoma.lg.jp/tourist/events/nomaoi/index.html(南相馬市観光情報サイト)
・URL: https://soma-nomaoi.jp/(相馬野馬追)

家族とともに馬がいる。馬と暮らす文化を受け継ぐ人々

家族とともに馬がいる。馬と暮らす文化を受け継ぐ人々
牧場を管理する門馬さん。「馬とともに暮らすのが日常」

家族総出で野馬追の行事に関わる南相馬の人々にとって、馬との暮らしは日常そのものです。毎年、その時期が近づいてくると、馬に乗った人たちをよく見かけるようになるといいます。そんな南相馬で訪れたのは、引退名馬が繋養される「南相馬ふれあい牧場」。エンゲルグレーセ、オーブルチェフ、ユビキタスといった、かつての競争馬から引退した名馬がのんびりと暮らしています。

アメリカ生まれの名馬オーブルチェフ
アメリカ生まれの名馬オーブルチェフ

毎年、野馬追の行事に参加し、この牧場を管理する門馬さんによると、南相馬の家庭には現在約150頭の馬が飼育されていて、その中には野馬追に出場する元競走馬もいるそうです。引退した馬たちにとって、こうした活躍の場があることからも、馬とともに暮らす伝統と文化が、南相馬には脈々と受け継がれていることがうかがえます。

5頭の馬たちが暮らす南相馬ふれあい牧場
5頭の馬たちが暮らす南相馬ふれあい牧場

■南相馬ふれあい牧場
・住所: 福島県南相馬市原町区牛来字出口82
・問い合わせ先: 0146-43-2121(日高案内所)
 *電話連絡後の訪問のみ対応。相馬野馬追期間中の訪問は不可。
・営業時間: 夏季 9:00~16:00、冬季 9:00~15:00
・アクセス: 常磐自動車道、南相馬ICから車で約25分。JR常磐線・原ノ町駅から車で約5分
・URL: https://uma-furusato.com/search_farm/1199.html

身に着けているのは武将甲冑。衣服の上からの着付けが可能です
身に着けているのは武将甲冑。衣服の上からの着付けが可能です

相馬野馬追の甲冑騎馬が列をなす野馬追通り。「野馬追通り銘醸館」では甲冑着付け体験を行っています。体験とはいえ、すねあて、籠手(こて)、肩・胴を着けて帯を締め、鉢巻きの後に兜をかぶって旗指物を背負うまで行うもので、実際に身に着ける甲冑は本格的なもの。もちろん男女を問わず、外国の方も着付け体験を楽しんでいるそう。甲冑には軽装の足軽甲冑や重さ15㎏にもなる武将甲冑があり、種類やカラーを選ぶことができます。

近くの神社で記念撮影。相馬野馬追に触れる一日に
近くの神社で記念撮影。相馬野馬追に触れる一日に

■野馬追通り銘醸館
・住所: 福島県南相馬市原町区本町2-52
・電話: 0244-26-8040
・営業時間: 9:00~17:00
・定休日: 年末年始
・アクセス: 常磐自動車道、南相馬ICから車で約7分。JR常磐線・原ノ町駅から徒歩約15分
・URL: https://minamisomakanko.org/甲冑着付け体験

震災の記録と記憶。防災への意識を高めるための施設が開館

震災の記録と記憶。防災への意識を高めるための施設が開館
見学ルートは校舎1階から教室前を通り体育館に続くいていく

福島県浜通り12市町村をめぐる旅で、最後に訪れたのは自然豊かな浪江町。この町を流れる請戸川には、サケが遡上することでも知られています。そんな請戸川の河口近くに位置する請戸地区も、かつての津波によって甚大な被害を受けていて、東日本大震災の脅威や教訓とともに、地域の記憶や記録を後世に伝え、防災意識の向上に役立てるための施設「震災遺構 浪江町立請戸小学校」が、2021年10月に一般公開されています。

パネル展示には、避難する様子が時系列で説明されています
パネル展示には、避難する様子が時系列で説明されています

請戸小学校の旧校舎の中には、被害の激しい校舎1階を通り、体育館の外側をまわって校舎2階へと続く見学ルートが整備されています。津波によってはがされた教室の天井や壁は、ほぼ当時のまま。その日、小学校の児童93名(1年生11名は授業が終わりすでに帰宅していた)は、先生の判断と児童の協力で奇跡的に無事避難することができています。避難の様子は絵本「請戸小学校物語 大平山をこえて」に描かれていて、その中の絵とパネル展示でによって、当時の状況をうかがい知ることができます。

震災遺構として保存される請戸小学校。津波の高さを示す展示もある
震災遺構として保存される請戸小学校。津波の高さを示す展示もある

■震災遺構 浪江町立請戸小学校
・住所: 福島県双葉郡浪江町大字請戸字持平56
・電話: 0240-23-7041(団体見学のご相談等は0240-34-0253まで)
・営業時間: 9:30~16:30(最終入館16:00まで)
・料金: 一般300円、高校生200円、小・中学生100円、小学生未満無料(20名以上の団体は各人50円引き)
・定休日: 火曜日(祝日の場合は開館、翌日休館)、年末年始(12月28日~1月4日)※臨時休館の場合あり
・アクセス: 常磐自動車道、浪江ICから車で約25分。JR常磐線・浪江駅から車で約15分
・URL: https://www.town.namie.fukushima.jp/soshiki/12/29194.html

誰も住まなくなった地域。人々の暮らしとその拠り所を考える

誰も住まなくなった地域。人々の暮らしとその拠り所を考える
小学校の先生と児童の避難ルート(請戸小学校内に展示)

請戸小学校の次に訪れたのは、小学校から先生と児童たちが歩いて避難してきた大平山。海岸から300mほどの請戸小学校を越えて、津波は小学校から1kmほど離れた大平山のすぐ麓まで押し寄せて来たといいます。そしていま大平山には「大平山霊園」が再建、整備されています。

避難の様子、防災、そして人々の拠り所について話す菅野さん
避難の様子、防災、そして人々の拠り所について話す菅野さん

浪江町の復興にたずさわる一般社団法人まちづくりなみえの菅野さんは、「先祖代々の墓所を再建することは、10年以上も誰も住まなくなった地域の拠り所を作ること」と言います。大平山霊園が地域の人々にとって「再会する場所」となることの大切さを語ってくれました。高台にある大平山霊園は避難場所としての役割も担っていて、地域一帯を一望することができます。

浪江町東日本大震災慰霊碑(大平山霊園)
浪江町東日本大震災慰霊碑(大平山霊園)

■大平山霊園(コミュニティ広場)
・住所: 福島県双葉郡浪江町請戸
・電話: 0240-34-0243(浪江町まちづくり整備課)
・アクセス: 常磐自動車道、浪江ICから車で約20分。JR常磐線・浪江駅から車で約10分
・URL: https://www.tif.ne.jp/jp/spot.html?spot=7103

取材・文=植木孝(地球の歩き方)
撮影=森田健一(ビュープランニング)
画像提供=相馬野馬追執行委員会、istock(相馬野馬追)

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※当記事は、2022年4月21日現在のものです

筆者

地球の歩き方書籍編集部

1979年創刊の国内外ガイドブック『地球の歩き方』の書籍編集チームです。ガイドブック制作の過程で得た旅の最新情報・お役立ち情報をお届けします。

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